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東京高等裁判所 昭和45年(う)3017号 判決 1971年3月08日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人長谷川保正の控訴趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

論旨第二点について

所論は原判示第三の銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実について原判決は法令の解釈適用を誤つているといい、右匕首の捜索押収手続が刑事訴訟法第二二〇条、憲法第三五条に違反し、差押によつて得た匕首及び前記中尾証人のこの部分の供述は何れも証拠能力がなく、これらを除けば被告人の自白のほか証拠がないから被告人は無罪たるべきものであるというのである。

記録殊に前記中尾光国の原審供述によれば被告人は酒気帯び運転の現行犯として昭和四五年六月二二日午前〇時一〇分頃大田区西蒲田七丁目四三番地先路上で逮捕され、同〇時二〇分頃蒲田警察署に引致されたのであるが、被告人がそれまで運転していた自動車を逮捕現場で差し押えた上右警察署まで運転してきた司法巡査中尾光国が助手席の物入れに前記匕首があるのを発見し、被告人に確かめるためこれをもつて事務室に入り、これを被告人の取調をしていた奥山主任に渡し、同主任が被告人に示してその所持、所有にかかる物であることを確かめた上で、保安係りと打ち合わせて領置の手続をとつたことを認めることができる。所論はかかる手続が刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号、憲法第三五条に違反するというので検討すると、被告人は、前に説示したように道路交通法違反の現行犯として逮捕されたものであり、刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号で逮捕に付随して令状なしに捜索し、差し押えることのできるものは右犯罪の証拠物等に限られるから、付随的な強制処分として全く別個の犯罪である銃砲刀剣類所持等取締法違反の証拠物の捜査、差押をすることは許されないものといわなければならない。しかしながら前記中尾巡査の原審証言によれば、匕首は同巡査らが現行犯逮捕に付随して差し押えた上警察署中庭まで自ら運転してきた普通乗用車の助手席ポケットの下の台の上に載つていたというのであつて、既に同巡査の占有下にある自動車内に放置されていたもので、新たに被告人の占有を侵して探し出して来たものではないから捜索をしたということには当らない。そして同巡査が右匕首を蒲田警察署中庭に停車させた自動車内から取り出し、同署事務室まで携えたのは、被告人が既に同所で取調を受けており、匕首についての所有者、所持者を被告人に確かめるためになしたものであり、被告人の原審公判廷における供述によれば、被告人は警察署において短刀(匕首)は要らないから処分してくれと本心から警察官に述べたので、この気持は今日でも変わらないというのであつて、これらを総合すると中尾巡査が匕首を自動車内で発見し、これを事務室まで運んだとしても、なお被告人が任意に提出したものと認めることができ、全体として刑事訴訟法第二二一条の領置と解せられる。さればこれらの手続が刑事訴訟法第二二〇条、憲法第三五条違反である旨の論旨はその前提を欠くものである。確かに中尾巡査にはこの点について多少の誤解があつて同人の作成した六月二二日付の差押調書添付の目録には道路交通法違反の証拠品である自動車、自動車検査証、エンジンキーと並べて一旦あいくちと記載した瑕疵はあるが、この記載は直ちに抹消され本件の匕首は別途に領置されたものであるから、この瑕疵は訴訟手続に何らの影響も与えておらず、所論の刑事訴訟法、憲法の諸規定に違反するものではない。されば証拠物たる匕首、中尾光国の原審証言は何れも証拠能力があり被告人の自白を補強するに足りるものである。原判決には所論の法令違反はなく論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する)

(青柳文雄 菅間英男 酒井雄介)

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